X’masコンサートレポート
2006年の最後を飾るのはクリスマスディナーショウです。1993年に始まって以来毎年この高輪プリンスホテル貴賓館でずっと続いている私の年末恒例行事です。
日にちは毎年12月22日か23日のあたりと決まっていますが14回目を迎える今年は12月22日(金)です。12月の平日の夕方クリスマスディナーショウに相応しくドレスアップして18:00~の食事に間に合うように駆けつける・・・というのは、このマンモス都市東京に暮らす人々にとってはなかなか大変なことですが、お蔭様で今年も早々チケットが完売しホテルも私もホッとひと安心でした。
歌は勿論のことですがお客様にクリスマスの雰囲気を存分に楽しんで頂くために何か良いアイデアは無いかしら・・・・と頭をひねってみたり、その件でホテルの担当者の方と協議したりご理解を得たり・・・・こうして瞬く間に日は過ぎ去りいよいよ22日を迎えます。16:00の会場入りを目指し暮れの金曜日ですから車の渋滞も考慮して少し早めに15:30我が家を出発です。今日もお蔭様で晴天に恵まれましたが、なにしろ1年の中でも一番日の短い日ですからホテルに到着するころはすでに日も暮れ暗くなり始めています。早い時間から暗くなるということで引き起こされる「淋しい」という感情にはいまだに慣れることが出来ませんが過去13回同様今日も気持ちを奮い立たせて頑張りましょう!
16:10~17:00までリハーサルをします。受付は17:30~ですが早めに到着なさるお客様がそろそろいらっしゃいますので17:00にはリハーサルを終えて控え室で待機いたします。お客様のお食事開始が18:00~となっておりコンサートはお食事の後ですから私の歌の開始は20:00~となります。リハーサルから本番まで3時間というのは喉の調子を整えるという点から考えるとちょっと長すぎて良くありません。なぜならせっかくリハーサルで暖めた声が3時間も経つとすっかり元に戻ってしまうからです。
しかしこの貴賓館というのは旧宮様の古い洋館を使用している為、1階のチャペル(コンサート会場)で歌うと2階でお食事をなさっているお客様に音が全部筒抜けになってしまうのでお客様の到着前にリハーサルを終えて、その後は控え室で黙って過ごすより他に仕方ないのです。
1階の控え室で待つ間2階のお客様は今日はどんな風にお食事をなさっているのかしら・・・と思いを馳せます。
---と申しますのは、これは私の持論なのですが--- コンサートは演奏者とお客様がひとつの時間、空間を共有するのだから両方のコンディションがよくないと良い空気が生まれないと思うのです。演奏者のコンディションが悪ければ空気が悪くなるのは当たり前の事ですが、演奏者と関係の無いことで空気が悪くなる場合だってあるのです。
例えば---会場の最寄りの駅を通る電車で大きな事故が起こりダイヤは大幅に乱れその結果ギュウギュウ詰めの電車に乗る羽目になり、すきっ腹を抱えて滑り込みセーフでコンサート会場に到着した、とか天気予報が晴れを予告したのでお気に入りの布製の美しいサンダルを履いて出かけたら駅を降りてコンサート会場に向かう途中で突然の大雨、全身ずぶ濡れ、美しいサンダルは見る影もなく汚れて今や雨を含んで重く冷たい凶器と化して足に食い込んで・・・とか、コンサート前に立ち寄った喫茶店で店員さんにコーヒーをこぼされて真っ白なワンピースにコーヒーの染みが出来てしまったけれど着替えに戻る時間は到底なくて仕方なしにそのままコンサートに向かったとかetc,etc・・・そんな時どんな名演奏を聴いたとしても心の底から楽しめないのは仕方のないことです。

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そして これも私の経験上の時論ですが、ディナーショー(たいていはディナーが先でコンサートが後なのですが・・・)の場合ディナーがワイワイ楽しく盛り上がってるときは歌い始めからお客様のノリも良くとてもやりやすいのですが、反対にディナーの席がお通夜のようにシーンとしているときは今日はちょっとやり難いぞ・・・と覚悟しなくてはなりません。
そんな訳で2階が今どんな風かしら・・・と思ってみるのですがさすがに2階のお客様のお声が1階の私のところまで届くことはありませんので、ただ祈るのみです。
でも2006年は大変ラッキーでした。後から知ったことですが今年から総料理長が変わったとかで貴賓館で出されたお料理も今までのもの(殆ど毎年同じパターンのお料理でしたから・・・)からガラリと変わりお味も大変良くなったとのことでした。そんな追い風を受けて20:00いよいよコンサートが始まります。会場はチャペルですのでお客様も演奏者も後ろの扉からしか入ることが出来ません。
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| お客様が2階から食事を済ませ降りてらしてチャペルの座席に着かれた所で私たち演奏者が後ろの扉から登場します。シューベルトのアヴェマリアを歌いながら客席の後ろからゆっくり進んでいきます。 |
当日のプログラムは下記の通りです。
| 1.アヴェ・マリア |
シューベルト |
| 2.アヴェ・ヴェルム コルプス |
モーツアルト |
| 3.母の教え給いし歌 |
ドヴォルザーク |
| 4.バラの3つの願い |
黄 自 |
| 5.ピエ・イエス |
A.L.ウェッバー |
| 6.私は神の卑しい下僕です |
チレア オペラ「アドリアーナ ルクブルール」より |
| 7.私が町を歩くと(ムゼッタのワルツ) |
プッチーニ オペラ「ラ・ボエーム」より |
| 8.アヴェ・マリア |
カッチーニ |
| 9.オー ホーリーナイト |
アダン |
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クリスマスコンサートでも曲と曲の間にトークを交えて進めていくのが菜穂子流!それにしても中国でのコンサートと違い母国語で喋るというのは何と楽なことでしょう!台本を用意する訳でもなく思いつくまま話せば良いのですから・・・・。中国語も台本に頼らず自由に話せるようにもっともっと頑張らなくてはと痛感しました。2007年の重点目標はこれに決まりです。
やがて終わろうとしている2006年をお客様と共に惜しむような気持ちで1曲1曲に魂をこめ感謝の祈りとして歌います。お客様もきっとこの1年の様々な思い出が浮かばれるのでしょうか・・・・2曲目あたりからずっと泣きっ放しという方も数人お見かけしました。勿論これは私の力などである筈もなく全てこの偉大な作曲家達の残した素晴らしい音楽の力のなせる技であります。しかし楽譜として残されたこれらの素晴らしい楽曲をお客様は演奏家を通してしかお聞きになることは出来ません。ですから演奏家は出来る限り作曲家の忠実なる下僕とならなくてはいけないと常日頃から思っております。6曲目はまさにこのような私の思いを歌った曲です。「私は神の卑しい下僕に過ぎません。私は神の御手のまま忠実に伝える楽器に過ぎないのです。そしてそれはすぐに消えてしまう儚い楽器です。」

| お仕舞いは「オー ホーリーナイト」。皆様の拍手に応えてアンコールはショパンの「別れの曲」です。今日はイタリア語の歌詞で歌います。そして最後はお客様も一緒に「サンタが街にやって来る」を賑やかに大合唱です。サンタのおじさんも登場!! |
お客様一人ひとりにクリスマスのクッキー(世田谷池尻のボン・マルシェ洋菓子店にお願いし特別に焼いていただきました。)をプレゼント!
皆様大喜びしてくださいました。そのままチャペルの隣室へ移動しアフターコンサートのフリードリンクを楽しんでいただきます。翌日は祭日ですし時間を気にすることなくゆっくり寛いでいただきます。私も皆様とお話したり写真に一緒におさまったり・・・「どうぞ良いお年を!!」と言い合ってお別れするまで静かに夜は更けてゆきました。 |

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<演奏後記>
プログラム5曲目の「ピエ・イエス」はミュージカル「キャッツ」「オペラ座の怪人」などの作曲家として有名なA.L.ウエッバーが作ったレクイエムです。レクイエムというのは死者のための鎮魂ミサ曲のこと。毎年クリスマスコンサートの準備を始める頃から喪中葉書が届きだします。一年の中には素晴らしい出会いがある一方で必ず悲しいお別れもあり生きている限りはこの辛い試練を乗り超えてゆかなくてはなりません。お客様の中にもご家族や親しいご友人を亡くされた方がいらっしゃる筈・・・ですからその様な方たちのお気持ちを代弁するつもりで心を込めてこのレクイエムを歌わしていただきます。
2006年を振り返って見ますと私自身のごく親しい人とのお別れはありませんでしたが、それに相当する程衝撃的なことがありました。それは2006年5月に亡くなられた米原万理さんの「死」でした。
アメリカの美人ソプラノ歌手アンナ・モッフォさんの死も彼女のリサイタルに当時学生だった私としてはなけなしのお小遣いをはたいて見に行った程のファンでしたからかなりのショックは受けましたが、彼女は既に引退してから随分と経っていますし私の中では既に「伝説の人」となっていましたから受け入れることはできました。
しかし米原万理さんはまだお若くこれからも次々に毒舌辛口のエッセイ、面白い小説などを世に送りだして下さるものと思っていましたので本当にショックを受けてしまいました。そろそろ新しい本が出るかしら・・などと能天気に考えていたのですがもう「次」は無いのだと思うと本当に残念ですし又ご本人のことを思うとお気の毒で。ですから彼女の死後に出版されました「打ちのめされるようなすごい本」というタイトルの本をいち早く入手したもののクリスマスコンサートを控えて体調管理に神経をすり減らす時期にはとても読めそうもないとずっと本棚においてありました。
22日の「ピエ・イエス」は米原さん、天国の貴女へファンの一人である私から感謝の念を込めてお贈りさせていただきました。どうぞ安らかに・・・合掌。
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